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『医薬品クライシス 78兆円市場の激震』

読了した。

元製薬企業の研究者(東大理学系化学専攻の前広報担当)が著した、医薬品業界に関する新書。

1章『薬の効果は奇跡に近い』では、現在の医薬品がなぜ効くのかという科学的理由を具体例をまじえ易しく解説しており、薬を作ると言うことが大変難しいと言うことがわかりやすく伝わる。

2章『創薬というギャンブル』では、1章で述べられた自然現象とは別の観点として、研究開始から臨床試験、販売に至るまでの創薬のプロセスが述べられる。

3章『全ての医薬品は欠陥である』では、薬に関する副作用や個人の効きの違いに関する問題がなぜ起こるのか、という解説と共にそれに対する政治的対応や薬の限界が述べられる。

4章『常識の通用しない七十八円市場』では、売り上げの二割を研究開発費に費やす事や、1つや2つのヒット商品が会社を支えているといった製薬業界の特殊性、また合併によるメガファーマの誕生など、製薬企業業界の現状について述べられる。

5章『迫り来る2010年問題』では、近年新薬が登場しておらず、多くの大企業で会社を支える薬の特許が切れる2010年問題について、その原因を考察している。著者は、『難病が残ったこと』『大合併による企業の保守化』などを原因としてあげている。

6章『製薬会社の終わらない使命』では、近年登場した抗体医薬や核酸医薬、ベンチャーによる創薬などを述べ、今後の創薬についての展開が述べられる。

政治的な視点や経済的な視点のみならず、科学的視点が入っている本は中々少ないが、きちんと書かれた良書であるように感じる。(単に科学的視点があるから良い、というのではなく、科学的視点をきちんと取り入れることで、製薬企業の問題が見えやすくなり論旨が明確になるという点が良い。しかもわかりやすいと思う)

個人的には、4〜5章での製薬企業の現状の下りが興味深く、特に著者自身の経験も交えてメガファーマ化による功罪を解く箇所は大変面白い。

私が創薬に関わることはないだろうが、近い分野にいることだし、今後も流れは抑えておきたい。ところで、2010年過ぎたのだが結局どうなったんだろうね。